TENDRE POISON 

~優しい毒~

『陰謀、企み、そして恋心』

◆午後10時の友情


 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

神代とキスをした。

 

 

何があっても動揺しまいと思ってたあたしだけど、さすがに昨日の今日ではどんな顔すればいいのかわかんない。

 

 

 

 

 

―――昼休み

 

 

「鬼頭!」

 

 

お弁当を持って学食へ行こうとしていたあたしを、梶が呼び止めてきた。

 

 

両手いっぱいのパンを抱えてる。購買で買ったばかり、と言う感じだ。

 

 

「鬼頭、今から昼飯?」

 

 

「うん」

 

 

梶はあたしが手にしてるお弁当箱の包みを見て、大げさに顔をしかめた。

 

 

「鬼頭の弁当ちっちぇ!そんなんで足りるの?」

 

 

「梶が多すぎるんじゃない」

 

 

あたしは苦笑した。

 

 

「それより何?用がないんなら引き止めないでよね」

 

 

 

「ああ、わり。今日さ、帰り暇?カラオケでも行かね?」

 

 

梶はことあるごとにあれこれ誘ってくる。カラオケだったり、カラオケだったり、カラオケだったり……

 

 

あんたの頭の中はカラオケって文字しかないのか、って感じ。単細胞?

 

 

「あぁごめん、今日は神代の手伝いがあるんだ」

 

 

梶はちょっと考えるようにして、頭を俯かせたのち、

 

 

「あのさっ」

 

 

梶は購買で買ったであろうパンにぎゅっと力を入れて勢い込んできた。

 

 

梶の腕の中でパンたちが苦しく呻いている感じ。

 

 

やがて

 

 

「何で鬼頭が神代の手伝いなんてしてるんだよ!」

 

 

 

とあたしを睨みながら聞いてきた。

 

 

 

 

 

 

 

P.68


 

 

 

てか、それって前にも聞いた台詞だし。

 

 

あたしがどこで何やろうが勝手じゃん。梶に関係ないじゃん。

 

 

答える義理もないし、そもそも答えるのも面倒。だけど、このままにしておくとワケが分からないこと喚きだしそうだし、そうなったら面倒だ。

 

 

早いうち何か言い訳しないと…と考えてると、

 

 

タイミングが良いのか悪いのか、神代がこっちに向かって歩いてくる。

 

 

周りには女子生徒がいっぱいくっついていた。

 

 

 

 

 

「先生~、お昼はいつもどこで食べてるの?」

 

 

「あたしと一緒に食べようよ♪」

 

 

なんて言われてる。

 

 

 

 

 

 

何故だか無性に苛々した。

 

 

何だろう…頭の中に鉛が詰まったような、この不快感。

 

 

 

 

「何でって成り行きだよ」

 

 

あたしは梶の目をじっと見据えて言い放った。

 

 

 

 

「梶は何か勘違いしてる。あたしと神代とは何にもないんだから。

 

 

ただの生徒と教師。それ以下でそれ以上でもない」

 

 

 

 

 

ちょうど神代が通りかかるところだった。

 

 

 

すれ違う瞬間、神代は何故かひどく傷ついたような顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

何で……

 

 

 

何でそんな顔するんだよ―――

 

 

 

 

 

P.69


 

 

あたしは梶をその場に残して踵を返すと、何故だか急ぎ足で自分の教室に戻った。

 

 

 

何で、あんな顔するのよ。

 

 

あたしの言葉が聞こえたから、あんな顔したの?

 

 

 

だって神代の能天気そうな笑顔を見た瞬間、言いようのない怒りがこみ上げてきたんだ。

 

 

 

 

 

乃亜にあんな酷い仕打ちをしておいて、自分だけは女生徒といちゃいちゃ……

 

 

 

 

それが許せなかったのか、他に何か理由があるのか―――

 

 

 

 

 

 

わかんない……

 

 

 

 

P.70


 

 

―――

 

 

放課後

 

 

 

 

これから神代の手伝いに行かなきゃいけない。

 

 

何だかひどく億劫だった。

 

 

頭に詰まった鉛が鉄に変化したような……

 

 

不快感が億劫と入り混じって化学反応起こしてる感じだ。

 

 

 

でも……

 

 

 

 

 

 

あたしは乃亜に誓った。

 

 

 

絶対にあいつの聖人然とした仮面を引き剥がしてやるって。

 

 

 

絶対に乃亜の仇をとってやるって―――!

 

 

 

 

 

 

意を決して立ち上がろうとしたとき、

 

 

「鬼頭さん、保健室の先生が呼んでるよ」

 

 

とクラスメイトに声をかけられた。

 

 

 

顔をあげると、入り口のドアのところであの軽そうな保健医がこれまた軽そうに、ひらひらと手を振っていた。

 

 

 

 

 

 

 

P.71


 

 

 

 

 

「用って何ですか?」

 

 

あたしは冷たく聞いた。

 

 

こいつは神代と仲が良さそうだったけれど、はっきり言ってあたしの作戦の中に利用できる男ではない。

 

 

 

 

 

「誰あれ?保健室の先生?」

 

 

「かっこよくない?」

 

 

「あたし仮病使って保健室にいこうかな♪」

 

 

 

なんてクラスメイト(女子)たちが、浮き足立ってる。

 

 

 

 

かっこいいか?

 

 

神代の方がよっぽど……

 

 

って考えてあたしははっとなった。

 

 

いやいや、神代は乃亜の敵だ。

 

 

あの甘いマスクで乃亜を誑かしたんだ!

 

 

 

 

 

「鬼頭さん、この間倒れたときの書類書いてなかったよね。ちょっと保健室で書いてくれない?」

 

 

保健医は似非くさい笑顔を浮かべた。

 

 

こいつ……何考えてるのかまったく見えない。

 

 

 

 

「書類ってここじゃだめなんですか?」

 

 

あたしは保健医を見上げた。

 

 

何でわざわざ保健室に行かなきゃならない。

 

 

ほとんど睨む格好になった。

 

 

でも保健医は気にしていない様子。

 

 

にこにこした表情を貼り付けて、

 

 

「ここじゃちょっとだめ。聞かれたくないこともあるでしょ?」

 

 

 

 

 

聞かれたくないこと?何だそれ。

 

 

 

でも、こいつが何考えてるか分からないから、とりあえずついていくしかないか…

 

 

 

P.72


 

 

 

……

 

 

あたしは大人しく保健室に出向いた。

 

 

あたしが入るのを確認すると、保健医は内側からドアに鍵をかけた。

 

 

カチリ、と音が鎮まった保険室内に満たされ沈黙がまるで霧のように押し寄せてくる。

 

 

一つしかない出入り口を閉ざされた。

 

 

嫌な予感がする。

 

 

霧が闇に変わった感じを覚えた。

 

 

 

扉が閉まったのが何かの合図になったのか、保健医はあたしに近づいた。

 

 

あたしは目を細めて、保健医を見上げる。

 

 

保健医は、もうあのにこにこ似非くさい笑顔を浮かべていなかった。

 

 

瞳の奥で何かが光って、口の端がつり上がる。

 

 

 

 

これがホントの姿か。

 

 

 

 

「書類は?」あたしは聞いてみた。

 

 

「んなもん、ねーよ」

 

 

口調まで変わってる。この似非保健医が。

 

 

やっぱりね。こいつは何か企んでるって思った。

 

 

でもこいつの企みにまんまと乗るわけにはいかない。

 

 

 

 

 

「じゃああたしは帰ります」

 

 

あたしはくるりと方向を変えた。

 

 

 

 

 

「待てよ」

 

 

 

保健医があたしの腕を掴んだ。

 

 

 

 

 

P.73


 

 

そのままベッドに引っ張られて、突き飛ばされた。

 

 

ドサっ―――

 

 

と音がして、あたしはベッドに沈められた。

 

 

ここが学校内だと言う油断があった。それが間違いだったんだ。

 

 

保険医がまさか突然にこんな暴挙に出るとは。

 

 

 

 

「……っつ」

 

 

ベッドに倒されるとき頭を打った。あたしは頭を押さえて保健医を睨み上げた。

 

 

 

「何すんだよ!暴行罪で訴えてやる」

 

 

「ふぅん。それが本性ってわけ?どうぞ?暴行罪で訴えれば?証拠はないけどな」

 

 

保健医は何やら楽しそうに顔を歪めて笑った。

 

 

「あんたに襲われたって言えば教師側は信じるよ」

 

 

「そうかな?聞けばお前相当授業態度が悪いみたいじゃねぇか。お前に誘われて困りきっていた、って俺は言うけどね。

 

 

お前と違って俺は先生の間で上手くやってンの。

 

 

果たして教師側はどっちを信用するかな?」

 

 

保健医はぞんざいに言ってふてぶてしく腕を組む。

 

 

確かに―――

 

 

あたしは恐らく教師の中であまり評判が良くないだろう。こいつ(保健医)が教師たちの間でどう振舞っているのか、どの立位置にあるのかもまだ不透明だ。

 

 

騒ぎ立てるのは得策じゃないだろうと頭の中で計算して、唇を噛んでいると保健医は黙ったままのあたしにの上に覆いかぶさってきた。

 

 

 

 

 

 

な……に―――?

 

 

 

 

 

保健医はあたしの顎を掴むと、顔を近づけてきた。

 

 

ドクン、ドクン……

 

 

あたしの心臓が危険信号を発してる。

 

 

 

 

「ガキに興味はないけど」

 

 

保健医は薄く笑った。

 

 

まるで氷のように冷え切った冷たい笑顔。

 

 

冷笑

 

 

と言う言葉が正しいのか。

 

 

 

 

 

「お前、水月にちょっかい出してるようだな。何企んでる?」

 

 

 

 

 

P.74


 

 

こいつ、神代と親しいの?

 

 

『みつき』って名前を呼び捨てにした。単なる同僚って言う感じじゃない。

 

 

確かに同年代ではありそうだけど。あたし、はっきり保健医の年齢知らないし。

 

 

こいつと神代の関係性が分からない以上、下手に動けない。

 

 

 

 

 

こいつも乃亜を陥れた神代とグルだったら―――?

 

 

 

 

 

「何企んでる……って。何も……」

 

 

「水月を好きなのか?」

 

 

あたしはぐっと言葉を呑み、口をつぐんだ。

 

 

今余計なこと言わないほうがいい。

 

 

こいつ、あたしの一枚も二枚も上手だ。

 

 

 

 

 

 

怖い……

 

 

 

 

「ふぅん。じゃあいいや」

 

 

保健医はにやりと笑うと、あたしに顔を近づけた。

 

 

顔が近づいてくると、凍てつくような冷たい笑顔とは裏腹に熱を持ったように熱い吐息が頬に掛かった。

 

 

それはあたしを冷笑していたわけではなく、こいつの中にある怒りの温度のように感じる。

 

 

シトラスのような歯磨き粉の香りに混じってほんの少しタバコの匂い。

 

 

そして

 

 

 

 

妖艶とも呼べる、オトコの香り。

 

 

香水だろうか。それはサラリと爽やかさを漂わせているのに、どこか色気のある甘さを含んでいる。

 

 

不思議な香り。

 

 

 

 

 

でも

 

 

 

嫌いじゃない。

 

 

 

 

 

そんなことを考えてる自分がイヤになって、あたしは思わず顔を背ける。

 

 

保健医はあたしの首元に顔を埋めると、あたしの首筋を舐めあげた。

 

 

突然のことに目を開いて、保健医を凝視した。

 

 

すぐ近くで保健医が勝ち誇ったように、ニヤリと笑う。

 

 

数秒遅れで、どうゆう状況にあるのか理解できた。

 

 

 

 

「何すんだよ!」

 

 

 

あたしは保健医の胸を押し、自由になっている足でばたばたともがいた。

 

 

もがいたけど、掴まれてる腕はぴくりとも動かない。

 

 

 

 

 

 

 

保健医はくっくと低く笑うとあたしの太ももを掴んだ。

 

 

このときはじめて思った。

 

 

大人のオトコってのは、あたしの太ももを片手で掴める程大きくて力強いものだ、と。

 

 

頭の中で危険信号が点滅していたが、今度ははっきりと点灯したのが分かった。

 

 

保健医はさほど力は入れてないように思えたけど、骨までも握りつぶされそうな圧迫感に目を開く。

 

 

その手がだんだん上に上がって、スカートの中にまで侵入してきた。

 

 

だけどいやらしさは欠片もなく、ただそこにあるのは怒りや疑心なんかの負の感情だ。

 

 

 

 

 

「やめて!あたし何も企んでないし、

 

 

神代先生を好きでもない!」

 

 

 

 

 

あたしは叫んだ。

 

 

力の限り。

 

 

今は仕掛ける余裕なんてない。とりあえず逃げるのが何より先決だ。

 

 

保健医の手が出し抜けに緩む。顔も首元から離れた。

 

 

 

 

 

「ふぅん」

 

 

保健医はそう言って目を細め、唇をちょっと舐めた。

 

 

どこか納得のいっていない様子ではある。

 

 

「ま、いいや。

 

 

でも水月に何かしてみろ。今日のようには行かないからな?

 

 

 

 

 

 

これは忠告だ」

 

 

 

保健医があたしの上から退くと、何事もなかったかのように白衣の乱れを直す。

 

 

そのスマートな仕草が憎らしい。

 

 

 

あたしはベッドから飛び上がると、スカートを慌てて直した。

 

 

 

 

 

P.75


 

 

「ご、強姦罪で訴えてやる!」

 

 

効き目が無いことぐらいあたしには分かっていたが悔し紛れに口から怒声が漏れた。

 

 

後ろを振り向いていた保健医がくるりと振り返ると、口元に、またもあの妖しいまでの冷たい笑みでにやりと笑顔を湛える。

 

 

「どうぞ、お好きなように。

 

 

さっきも言ったけど証拠はないぜ?それにお前が喚いても教師たちはどちらを信用するかな?

 

 

やってみれば?

 

 

 

 

それに、俺はこの学校にいたくているわけじゃないんでね」

 

 

 

 

 

なんて奴―――!

 

 

 

「あんた神代の何なの!?同僚のため?友達でもここまでしないよ!」

 

 

「水月とは親友。大学時代からのね」

 

 

保健医は机と対になってる椅子に優雅に腰掛けた。

 

 

親友―――?それも大学時代から……?

 

 

 

 

 

 

「友達だから……大切な奴だから、ここまでするんじゃない?」

 

 

 

 

投げかけれた視線や言葉をあたしに向けられているのに、その感情はどこか遠くを彷徨っているように思えた。

 

 

 

だけど

 

 

 

―――『大切な奴だから』

 

 

その言葉があたしの心に沈む。

 

 

 

 

 

あたしだって乃亜の為に、やろうとしてることはこいつと変わりない。

 

 

 

 

 

 

あたしがやろうとしてることは……

 

 

 

正しいことなのだろうか―――?

 

 

 

 

 

P.76


 

 

 

あたしの心に芽生えた一つの疑問。

 

 

あたしはその疑問を振り払うように、そしてあの保健医から逃げるように、保健室を飛び出た。

 

 

 

 

 

保健室を出たら安心したのか、急に涙がこみ上げてきた。

 

 

 

 

 

怖かった……

 

 

悔しかった。

 

 

 

どうしようもなく……

 

 

 

 

 

「鬼頭?」

 

 

 

涙をこらえていると、背後から声がした。

 

 

あたしが振り返ると、

 

 

 

梶が突っ立っていた。

 

 

梶が何でこの場に居るのか分からなかったけど、理由を尋ねる余裕もなかった。

 

 

 

「梶……」

 

 

 

 

 

 

「おまっ!どうしたんだよ!」

 

 

梶はあたしの顔を覗き込んで大声をあげた。

 

 

「なに?あたしどうもしてないよ」

 

 

強がりでを言って何とか顔を上げる。

 

 

 

 

 

 

 

「どうもしてないわけないだろ。

 

 

 

お前、泣きそうな顔してる」

 

 

 

 

 

 

 

 

P.77


 

 

梶に言われて、あたしは思わず俯いた。

 

 

やだ……

 

 

俯いたら、涙が……

 

 

 

 

「鬼頭……何があったんだ……?」

 

 

 

梶はあたしの手をそっと握ってきた。言葉の勢いとは逆でその手つきは酷く慎重だった。

 

 

慎重、と言うより優しい―――

 

 

暖かい手。優しい感触。

 

 

あの保健医とは違う手……

 

 

 

 

ふいにあの怖かった1シーンを思い出して、あたしはダムが決壊したごとく涙を流した。

 

 

泣いてる理由を言えなかったけど

 

 

梶はそれ以上何も聞かず、何も言わず、ただあたしの傍に居てくれた。

 

 

もう鐘は鳴ってとっくに下校の時間は過ぎてるって言うのに。生徒たちが下校を終えたひっそりとした廊下で、ただ一緒に突っ立って。

 

 

今のあたしはそれが一番ありがたかった。

 

 

 

 

 

―――結局、神代の手伝いはいかなかった。

 

 

また明日何か言われるかな。

 

 

でも、神代には会いたくなかった。

 

 

 

 

 

夜10時。あたしは、ごはんも食べず一人きりでリビングのソファにいた。

 

 

テレビもつけてない。音楽もかけてない。

 

 

無音の中で、携帯の音が鳴った。

 

 

~♪

 

 

着信:梶(ホントは梶田) 優輝

 

 

 

となっていた。

 

 

 

 

 

 

 

P.78


 

 

 

ディスプレイを見てあたしは戸惑った。

 

 

さっき泣いたことが急に恥ずかしく思う。

 

 

梶は何も聞かずに帰るまであたしの傍にいてくれた。

 

 

お礼……言わなきゃね……

 

 

 

 

「―――はい」

 

 

『鬼頭?俺、梶』

 

 

「知ってるって(笑)何だった?」

 

 

あたしはなるべく平静を装った。まだ引きずってるって思われたくない。

 

 

『いや、お前……大丈夫かなって思って』

 

 

何て言えば分からないけど、と続きそうな予感がした。

 

 

それぐらい不器用な物言いだった。

 

 

 

 

 

 

「大丈夫だよ。さっきは泣いたりしてごめんね」

 

 

『……ううん。泣きたいときは泣けよ。すっきりするぜ。

 

 

 

俺さ、勘違いしてたけど、お前は強い女だと思ってた』

 

 

 

 

梶の言葉にあたしは目を伏せる。

 

 

よく言われる。

 

 

『雅は強い子だから』とか『一人で大丈夫だよね』とか。

 

 

慣れてる分、弱い部分を見られるとどうしていいのかちょっと戸惑う。

 

 

「幻滅した?」

 

 

 

 

 

 

『いや。反対。

 

 

 

 

俺、お前のこともっと知りたいかも……

 

 

 

 

 

知って、お前が泣かなくていいように強い人間になりたい』

 

 

 

 

 

 

 

P.79


 

 

 

 

 

 

強い人間に……?

 

 

 

 

 

 

「梶は優しいよ」

 

 

『いやね、雅ちん。俺、強い人間になりたいって言ったのよ。聞いてた?』

 

 

梶がわざとチャらけて笑ったが、だけど電話の向こうでは慌てている。

 

 

 

 

 

 

「聞いてるよ。あたしは人に優しくできる人間が一番強いんだと思う」

 

 

あたしは弱いから……

 

 

だから、傷つけることしか考えてない。

 

 

こんなのホントはいやなのに……

 

 

 

 

 

 

『あのさっ!何に悩んでるのか分かんねーけど、俺はお前の味方だからなっ!』

 

 

 

 

梶……

 

 

 

 

『って何言ってんだ俺……わりー』

 

 

「何謝ってるの梶」あたしは笑った。

 

 

電話の向こうで梶がへへっと照れ笑いの声を漏らした。

 

 

 

 

 

「ありがと、梶。

 

 

あんたのおかげで元気でた」

 

 

 

 

 

梶がいてくれて、ホントに良かった―――

 

 

 

 

 

 

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